19.4. 個体群生態学の応用
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絶滅の危機に瀕した生物種の保全
米国の種の保存法は「全国的あるいは分布する大部分の地域において絶滅の危機にある」種と定義
近い将来絶滅が危惧される種
絶滅危惧種と絶滅危急種は、個体群サイズの極端な減少で特徴づけられる
保全活動家にとっての挑戦は、個体群減少の原因を特定すること、その状況を改善すること
絶滅危惧種ホオジロシマアカゲラは、保全活動家が個体群減少の要因を特定、改善し、絶滅寸前だった種を救済した好例 ホオジロシマアカゲラはダイオウマツ林を必要とし、精揉した生きたマツに巣穴をあける もともとは、アメリカ南東部の至るところに分布していたが、適した生育環境が森林伐採や農業によって失われていくにつれて、ホオジロシマアカゲラの個体数は減少した
さらに、自然条件で発生していた山火事が人為的に抑制されることによって、残っている森林の種組成が変化してしまった
研究結果によると、マツ林の下層植生が繁茂し4.5m以上になると繁殖個体は巣を放棄する
野外観察によるとホオジロシマアカゲラは、営巣木と近接した採餌場の間に、見通しの良い飛行通路を必要とする
ホオジロシマアカゲラは、ほぼ絶滅的な状態から個体群を維持できる数にまで回復した
この島の個体群成長を増加させる条件を整えたことによる
たとえば、人為的にコントロールされた野焼きは、森林の下層植生を減少させ、マツ林およびキツツキ個体群を維持することに役立っている 持続的な資源管理
野生生物の管理者、水産生物学者、林業家の目的は、将来収穫するための資源の生産性を維持しながら、最大の収穫量を得ること
ロジスティック型成長モデルによると、個体群サイズが環境収容力の約半分のときに、最も大きな成長率になる
理論的には、資源管理者は環境収容力の約半分まで個体群を収穫することによって最高の結果を達成できるだろう
しかし、ロジスティック型モデルは成長率と環境収容力が時間的に安定であることを仮定している
このような仮定に基づく計算は、個体群によっては現実的でなく、持続的でない高い収穫レベルを導き、資源を劣化させるかもしれない
さらに、人間の経済的、政治的圧力は生態学的な関心を上回ることが多く、科学的な情報が十分でないことも多い
魚類は広域的に漁獲されている唯一の野生生物で、卵殻に対して特に脆弱 たとえば、北大西洋のタラ漁の場合、タラ資源量はとても高く推定され、若いタラを海に廃棄する行為が、予想以上に高い死亡率をもたらした https://gyazo.com/968e8ee5b6b4b9daebd2b4d6e9633fa8
1970年代まで、海洋漁業はタラのような大陸棚に生息する魚種に集中していた
これらの漁獲資源の減少に伴い、より深い600m以下の大陸棚斜面の魚種に注目が移っていった
これらの魚種の多くの場合、最初は漁獲が大きかったが、資源量の減少に伴い急速に漁獲が減少した
深い海域は冷たく、食物は比較的少ない
魚種の基本的な生活史特性を知らずして、持続的な漁獲率は推定できない
さらに、個体群生態学の知見だけでは不十分で、持続的な漁業には群集や生態系の特徴に関する情報も必要になる 侵略的な生物種
外来種で導入された地点をはるかに越えて拡散し、好適な場所で繁殖、優占し環境や経済に損害を与える
米国だけでも、数百の外来種があり、それらは植物、哺乳類、鳥、魚、節足動物、軟体動物を含む
外来種は局所的な生物絶滅のおもな要因のひとつ
外来種の経済的な被害は膨大で、米国の場合、年間1370億ドルの被害と推定されている
新たな生育地に導入されたあらゆる種が、定着に成功して侵略的になるわけではない
外来種が破壊的な有害生物になる理由についての単一の説明はないが、侵略種は典型的な機会的な生活史特性を示す たとえば、ヨーロッパウサギのメスは4ヶ月で繁殖齢に達し、年間4~5回の繁殖で5匹以上の子を産む その種子はアジアからの穀類に混じって米国に偶然持ち込まれ、家畜によって分布を広げた
現在、チートグラスはかつて在来のイネ科草本ヤマヨモギが優占していた牧草地を約6070ha以上にわたって覆い、毎日4000m²ずつ拡大していると言われている チートグラスの種子は降雨時に発芽し、冬の間中、根を地中に伸ばし続ける
暖かい春がくると、既に定着したチートグラスの密な株は、在来植物や作物の土壌水分や無機栄養素を奪う
そして、他の植物種よりも、速く多くの種子を生産する
チートグラスの種子は、初夏に成熟し、植物体は非常に乾燥し燃えやすく、雷や静電気によって簡単に発火する
チートグラスの野火は、在来植物が適応して耐えうる火よりも強烈で頻繁に発生する
数回の野火によって自生の植物種は消え去り、150種以上の鳥や哺乳類の食物や隠れ場所を奪う
地球の気候変動も、牧草地がチートグラスへ転移することを加速させている
研究結果によると、チートグラスは二酸化炭素濃度の増加に応答して成長が速くなり、より多くの組織を蓄積し、野火にとって多くの燃料を提供すると予測されている
多くの侵略的動物種は在来種の資源を奪う
このような破壊的な鳥は、1890年ニューヨークで最初に放された
100個体くらいの導入個体群は、50年を経て北アメリカ中に分布を拡大し、2億以上の個体数に達した
1万から10万に達する群れは、耕作地の穀物や果樹園の果物を食い尽くす
都会では、過密な個体群からの酸性の糞が建物を腐食させ、ひどい臭いを発している
侵略種の生物学的防除
個体群の死亡率を増加させることによって増加率を抑制する、病気、捕食者、植食者のような生物要因の欠如も、侵略種の成功に貢献する
有害な個体群を攻撃する天敵を意図的に放つこと
農学者は、収穫量を減少させる昆虫や雑草を制御する潜在的な生物種を見つけることに、長い間興味を持っていた
オーストラリアのウサギ個体群を、最終的に管理可能なレベルまで減少させた方法は生物学的防除だった
毒殺、コロニーの破壊、囲い込みによる狩猟などによって個体数の増加を食い止める試みが失敗に終わった後、オーストラリア政府は、ウサギの環境に致死的なウイルスを導入した 1950年に始まったこの作戦は、当初は個体群をうまく減少させた
しかし、自然選択は致死ウイルスに耐性をもつウサギを生んだ
ウサギ個体群におけるウイルス耐性個体の割合が増加するにつれ、個体群サイズは急速に回復した
ウイルスもまた進化した
ウイルスの遺伝的な性質は致死的なものでなく、もしくは、宿主をゆっくり殺すタイプになった
そのような進化的変化は、ある種の進化が第二の種の対抗適応をもたらす
オーストラリア政府は新たな遺伝的性質をもつウイルスを導入し、ウサギ個体群が完全に回復するのをかろうじて免れた
しかし、1995年には個体数管理のため、また別の病気に切り替えなければならなかった
共進化は生物学的防除における1つの落とし穴にすぎない
防除のために導入した生物が、駆除対象の生物と同じような侵略種になるかもしれない
したがって、生物学的防除に用いる生物の安全性やその効果を評価するための綿密な調査が必要とされる
統合的病害虫管理
漁業とは対照的に、農業は高度に管理された生態系を作る 典型的な作物個体群は、遺伝的によく似た個体が近接して植栽されるもの
耕され肥沃な土壌は、作物と同様に雑草も育てる
これらの生物は成長している作物と、無機栄養物、水、光をめぐって競争する
あるいは、作物の葉、根、果実、種子を食害する
侵略種のように、作物の病害虫のほとんどは、機会的な生活史パターンをもっている 農業の歴史は、壊滅的な病害虫の大発生の事例であふれている
1840年代には、イモグサレとよばれる病気を引き起こす原生生物が、わずか数年でアイルランド中のジャガイモ畑を食い尽くした 植食性昆虫も大規模な被害を引き起こす
病害虫に対する化学的解決法自体が多くの問題をもたらした
これらの化学物質は汚染物質で、空気や水の流れによってきわめて長距離を運ばれる
被食種は捕食者よりも高い繁殖率を持つことが多いので、病害虫個体群は捕食者が繁殖する前に急速に回復する
他にも、農業と自然の生態系の両方に不可欠な受粉者を殺してしまうなど、意図しなかっった損害も生じた
農業被害を持続的にコントロールするための、生物学的、化学的、文化的方法の組み合わせ
研究者は侵略種に対してもIPMアプローチを検討している
IPMは植物の成長動態に関する知見に加え、病害虫やそれに関係した捕食者や寄生者の個体群生態学に関する知見に依存している
伝統的な病害虫管理手法が、すべての病害虫を根絶しようとしたのと対照的に、IPMは低いレベルの病害虫には我慢することを主張する
よって、多くの病害虫管理策は、食害耐性の作物品種を用いたり、複数の作物種を混植したり、病害虫の餌資源を減少させるために作物種を交替させることによって、病害虫個体群の環境収容力を小さくすることを目指している 生物学的防除も可能であれば用いられる
農薬も必要なら適用されるが、IPMの原則には化学物質の過剰な使用を抑えること